【奥の細道23-4】山刀伐峠(山形県最上)
あるじの云、是より出羽の国に大山を隔て、道さだかならざれば、道しるべの人を頼て越べきよしを申。さらばと云て人を頼侍れば、究境の若者反脇指をよこたえ、樫の杖を携て、我我が先に立て行。けふこそ必あやうきめにもあふべき日なれと、辛き思ひをなして後について行。あるじの云にたがはず、高山森〃として一鳥声きかず、木の下闇茂りあひて夜る行がごとし。雲端につちふる心地して、篠の中踏分踏分、水をわたり岩に蹶て、肌につめたき汗を流して、最上の庄に出づ。かの案内せしおのこの云やう、此みち必不用の事有。恙なうをくりまいらせて、仕合したりと、よろこびてわかれぬ。跡に聞てさへ胸とゞろくのみ也。
案内人の屈強な若者との峠越えに、俳諧に対する決意を仮託。
遊歩道となっている旧道を進むと「高山森々として一鳥声きかず、木の下闇茂りありて夜行くがごとし」の深いブナ林の名残りを感じることができる。
山刀伐(なたぎり)峠の旧道は徒歩のみ