街道遍路

歴史街道・史跡探訪ピンポイントガイド

イラク開戦同時納車。ドイツ戦車、首都を蹂躙す

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●東京のコンクリートジャングル。「冒険」という名前を冠せられたそのオートバイクは、砂嵐が席捲するデザートだけではなく、殺伐とした都会砂漠にもよく似合う。

2003年3月20日午前10時。ついにイラクと米英のあいだで戦争がはじまった。
 この同日同時刻、一機のバイクが納車された。軍用車輌を思わせるいかつい無骨さ、平時にはまったく無用の長物ながら有事にはそれが最高レベルの機能美を見せはじめる、そんな第二次大戦時のドイツ軍戦車のようなオートバイク。「冒険」という名前をかんせられたモオタアバイク。
 BMW R1150GSアドベンチャー。
 納車初日、俺はこれを日本という国の中枢部にまず持ち込もうと思っていた。ニッポンの大地の津々浦々、列島をくまなく蹂躙するにあたって、まずは日本政府にご挨拶というわけだ。
 都内を抜けるには、あまりに不向きなバイクである。その両翼を広げたような全幅と石ウスのような重量、乗る者をバレリーナのようなつま先立ちにさせる居丈高な車高。しかも電気制御のサーボブレーキは低速のスリヌケ時の微妙な車速コントロールができない。急にかっくん、と止まるので、あわてて足を出すが、ぐらりと来ると、もう支えられない。何度倒れそうになって、隣のクルマやバイクに恐慌を与えたことか。
 戦車本来の姿なら渋滞するクルマの列を押しつぶしながら前進あるのみだが、実際やっていることはコチョコチョ、ヨタヨタのスリヌケ。その巨大さに圧倒されながらも、なんとか東京駅前ロータリーに進入し、丸の内制圧。その後、昼の補給を済ませ、皇居前にて凱旋の記念撮影。そこで偶然にも独逸(ドイツ)人に話しかけられた。いや、正確には独逸人につきそっていた女性通訳と話をした。
「これは日本ではいくらするんですか?」
「にひゃくまーんマルク」
 通訳は渋い顔をし、初老の独逸人もあんまし笑ってくれなかったが、深い皺を刻んだ口もとだけ、にやり、とした。俳優のような表情だった。
このあと、国会議事堂に砲身を向けつつ走り過ぎようとしていると、後ろで右翼の街宣車がけたたましい音量で軍歌を流しはじめた。これも見ようによっては軍用車だが、機能美がないな、なんて思っていると、横でいっしょに信号待ちをしていた白バイが無線連絡をとりはじめた。
VFR800、最新型白バイは機能美と緊張にあふれている。この街宣車と同じ方角に進んでいたせいか、ものものしい様相で警察官が道路に出張って連絡をとりあっている。やっぱ戦争がはじまっただけあって、日本の中枢部はぴりぴりした雰囲気に包まれている。
そのまま青山街道を南青山へと凱旋し、マックスマーラの前にて停泊。この都心の一角を野営地とし、2時間ほど停泊。歩道に乗りあげた違法駐車のスクーターたちの中にあって(さすが南青山。流行のスクーターばかりだ)、センタースタンドをかけて直立したわが軍用車は、さながらダックスフントを従えたアフリカゾウであった。
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●丸の内前のロータリーにて。この戦車の目標は、まず首都制圧だ。
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●皇居前にて凱旋。この戦車然としたモオタアバイクがきれいなのも今のうちだろう。まもなく冒険という厳しい戦列へと突き進まねばならぬのだ。遠くに見えるのが江戸城。
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●TOKYOの警察のバイクは高価そうだ。ニッポンの国民はすごい。こんな贅沢なバイクを税金で買ってあげられるのだ。